都会のさかな.

今日の読書:『小鳥たち (新潮文庫)』貧しい文人達を食わせる為に、或る老人からの依頼で書いたエロティカ数篇、という主旨の解説が付いているが、本当にセクシャルな内容で驚いた。新潮文庫はなかなか乙だ。やたら滅多らセクシャルなのではなく、アナイス・ニンならではの味、気品、切なさがある。しかし、しっかりセクシャルである事は、間違いない。

                              • -

ビルの隙間の向こうを見ているとそわそわする。入り口に座って私が全く知らないその裏筋の喧噪や出来事を想像(または妄想)しているだけで数時間過ごせそうだ。なぜか分からないが、そこに立つと「私」という意識がどこかに旅立ち、目と脳だけが残り浮遊する気になる。 未知への憧れと不安、という解釈を、どうしても受け入れたくない。
都会のビルの隙間の向こうでは、年季と疲労のすすを被ったクラブやスナック、飲食店、華美なくせに無口な或種のホテルが、ところ狭しと軒を連ね、うとうとしながら陽のある時間を退屈そうに過ごす。目を醒ますと鮫の様な視線を放ちだし、まだ雑魚の私に門前払いを食らわす。

                                • -

夜遅くまでセミナーを入れていた為、早い時間にファーストフード店で夕飯を済ます。御飯に豚肉の生姜焼きが挟まっているものを食べた。わずかにもち米の匂いがした。
御飯は安心する。むしろ、安心させ過ぎる。(日本人が電車で居眠りするのは、御飯を食べている所為だ、という説を何時だったか聞いた事がある。消化に時間がかかるとか、腸がどうだとか、根拠を忘れてしまった) それまでの疲れも相まってか、思考が回らない。笑顔もつくれないし、質問をしたのに切り返しがうまくいかない。自分の思考の回転の鈍さと、コメンテーターと同業界を目指す人の柔軟さを、重たい感触で頭の上から受け取り、更に疲労す。

                            • -

雑誌「ブルータス」が動物園特集、「装苑」がイギリス・テキスタイルについての別冊付録付きで出た。お財布が困った状況の時に限って、欲しいものが次から次へと出る。結局、動物と特別装丁が気になり、比較的安価な「ブルータス」を買ってしまった。駅前の大型書店の棚組みが乙でつい長居してしまい、危うくセミナーに遅れかけた。

                            • -

昨日今日明日の基準: ひとりで出来る事は何時でも出来るから寝かせておいて、他のひと人がいて出来る事を部屋の外では求めたい。

                                • -

21時、都会の駅にて、すれちがいざまに酒の臭いを嗅ぐ。