偽物或いは本物.

ここのところ、美味しいコーヒーにも、悪くないコーヒーにも、仕方のないコーヒーにも、ありつけていない。値段にも頷く事が出来ない。舌が変わってしまったのだろうか。インスタントコーヒー用の舌に。ドーナツチェーンのドーナツは、その舌にとってのドーナツではなくなってしまったし。ならばドリップコーヒーはどうか、と、キャラメルの香付きコーヒーの粉を買って来て淹れる。淹れ方がまず過ぎるのだろう、やはりコーヒーではない。キャラメルの香が、何時間も口の周りにへばりついて、飽きるまで香った。
生まれて一年が経とうとする猫が数匹、三つ指をついているような格好で、食堂の中を見ていた。音の無い風景の様に感じる。
朝、寝台の中で目覚めて咄嗟に、嗚呼雨が降っているのだ、と決めつけてから、起き上がりカーテンの隙間からそらを見上げると、予想に反してきれいに晴れている事がある。ではあの、さああ、という音や、はっとする気配は、一体何だったのだろうか。「本物」の雨の場合は実際、もっと空気が重い。雨、という言葉を浮かべると、あのそらの独特の灰色と、硝子にくっついた、黒い輪郭で中は透明な雨の玉が、雨雲のように頭の中の「上方」を暫く漂う。
早く出てきて早く食べ終わる事が叶うから、ファーストフード、というのだ、と約束を後に控えた昼食で実感した。近頃どういう訳か、このジャンキーで高カロリーな代物に憑かれていて、以前よりも気楽に入店してしまう。原因の一つは、金銭的負担が少なくて済む、という事で、原因の二つ目は、ポテトのフライが好きだ、という事だと思う。約束が無ければ、サラダと飲み物付きの高菜炒飯を食べるつもりでいた。