宙を舞う.

楽団の練習に向かう途中、黄色い猫が二匹、目を細めて座りこんでいるところに近づくと、二匹共から親しげに挨拶をいただいた。珍しく甘い声を出す。餌やりのおばさんと間違えたのだろうか。眠たそうだった。
こちらも眠いと演奏がもたない。何とか弾きはするが、音楽への没頭具合が健全な時と全然違う。楽団のホームページ管理人を引き継ぎ、更に、練習日記を書け、と云われたので、前夜からブログを立ち上げてこちこちとデザインをいじって完成させた。最近のブログデザインは、どれも皆、文字のサイズが小さ過ぎる。お洒落感を失わずに見易くするのは案外難しく、11pxで妥協した。
いざ帰宅して、日記を書こうにも、あまりに反省や練習内容が重い為、何をどう明るく書けば良いのか、散々悩んだ挙句眠る事にする。どうせひとりで写真なり記事なりを上げても、大して興味を持ってもらえないのは分かっているだけに、途中で馬鹿らしくなった。
「撮りますよ」と笑顔で声をかけるのは得意ではない、と気がついて、写真館の職人の仕事が少し理解出来た。電話のカメラのシャッター音が、楽器の音に混じってしまうのを良い事に、メールをしている風を装い人にレンヅを向けて何度か瞬かせてみたものの、なぜか後ろめたくなって止めてしまった。こっそり、に慣れていないのだ。そして極めつけに、師匠を撮ろうとして気づかれた。師匠の目に私は、常に挙動不審な人として映っている事だろう。
演奏での失態もあり、ずっしりという疲労感とひゅうひゅうと宙を舞う意識で、参りそうになったので、コンビニでチョコレエトを一枚買った。派手なピンク色をした、苺味の板状チョコレエトは、なかなか病みつきになる。

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言葉、言葉、とこんなに言葉に執着していて良いのだろうか、本当に言葉は私を救ってくれるのだろうか、と某新聞社の「言葉の力を信じている」というコピーや宣伝を目にして思う日々だが、以下の文章を目にして、「腹の一物」が落ち着いた。

言葉は怖いね。
心から口を出た瞬間にそれは形となり、
さほど気にしてなかった事でもそういうことになります。
ほら、修学旅行の夜、ちょっと好きだった女子の名前を
言った次の日から、脳内ドラマスタート。
(中略)
だけど、フッと気を抜くと、
「良い事ひとつもない」なんて
馬鹿な魔法使いの居る真っ暗闇に
髪を引っ張られそうになるので呪文を唱えます。
エコーするバスルームで、好きな人の名前を呼び続けるのです。
つまり助けられるのもまた言葉なのね。

イラストレーター・中村祐介さんのブログ「僕のアベノライフ」より