物知りナルシスト君.

自分の事がこれっぽっちも分からなくなったので、一冊丸ごと心理テストと占い、という女性雑誌にまずは訊いてみよう、と手に入れ、設問に答えていると、気がつけば午前二時になっていた。
気だるい設問に気だるい解答の他に、箱庭を描くテストがあり、ものの五分で仕上げた自分の心象風景に満足して就寝した。その出来栄えに満足する者は、ナルシストであるらしい。
一冊仕上げたところで何か分かったか、というと殆ど何も分からないままではあったが、今自分に自信がない、という事を知った。どうも近頃、自分の顔かたちが嫌いで仕方なく、そして自分の事しか考えていない自分に腹を立て、気分も体調も不安定で困っている。
自分に自信がない人は、自意識過剰気味で潜在的にナルシストなのではないか。自分は特別な存在でありたい、あらねばならない、と考えており、その時点ですでに、自分は特別な存在であるはず、という考えで以って日々過ごしている。
平凡である事をなぜ恐れるのか。そう問われたとすれば、平凡な私には何もない、と答える。何度も洗いをかけても草臥れず、特別な加工を施されずとも、凛とした美しさを保つリネンの様な存在にはなれない。
誰かを愛する事よりも、愛されたいという願望が先行しているのか。愛するとは何だろうか。愛とは何なのだろうか。美味しいのだろうか、それは。

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表現する事が怖い。表現する事自体は好きだが、自分を世間に曝す事が怖い。表現のない音楽は音楽ではない。
そう考えると、自分は音楽に向いていない、というフレーズに辿りつき、音楽に限らないだろう、と更に考えると、人間に向いていない、という極論に辿りつく。
洞穴で縮こまっている臆病の泣き虫を、もう少し暖かくなったらつまみ出してやらねばならない。でも、もう少しだけ、眠らせておきたい。疲れているらしいから。
どっしり構えている様に見えて、実は「へたれ」なところがあるかもね君は、と云ったのは師匠で、云い当て妙であるが故に少々腹が立った。どっしり構えた事なんて、この世に生を受けてから一度もないのだが、なぜかその様に理解され、また主張と表情が弱い所為でその誤解はいつまで経っても解けないのだ。枕が苔生すまで。