送風.

「しまった寝過ぎた」と飛び起きた午前四時、そこから卒論の見直しを始める。この日は終に(「嫌だ、来るな」といくら念じようが、やって来るのが日々なのだが)大学院の試験日…筆記と面接の一日。どちら共、咄嗟に身につけた知識を問うものではなく、今まで時間をかけて培った能力を問うものだった。妙な意気込みは、古びた空調から流れでる生暖かい送風に、吹き流されていった。
試験を終えた後は、諸々の感情と後味を思考の奥に追いやり、二月下旬にある演奏会の練習、その後は中高生の演奏会に駆けつける。
コンマスの男の子と、なぜか目が合った。…というのは勘違いかもしれず、私の方向に居る誰かと目を合わせていたのかもしれないが、眼鏡の奥の凛としたその瞳と紅い唇から、思わず目を逸らした。彼ら彼女らの時期、私は一体何を考えていたのだろうか、彼ら彼女ら自身は何を考え今を生きているのだろうか、咄嗟に思い浮かばない。流れていってしまったものを、懐かしく又掴んでおかなかった事を惜しく思う。
帰宅後は、気疲れにより就寝す。

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人のことなど、考えて何が得られるものか分かったものではないが、やはり数日前に浮かんだ「ひと(が私に対して持っている・私が知らずの内に持たせてしまっている期待や幻想)を裏切る事が一番怖い」という感情を、払拭出来ずに居る。人自体を裏切らぬように注意することならまだしも、上記のような状況を防ごうと生きる事は、自分の思うがままに生きようとすることとは、別種のしんどさがある。