Märchen.

ある森の中を、女の子がひとり、歩いています。
森を抜けたところにある薬屋さんに、元気になるお薬を貰いに行くのです。
その森はとても深く、薄暗いので、
その女の子は道に迷ったりしないように、
森の入り口にあったお店で、森の地図とランプを買いました。
けれども、女の子はじきに、道に迷ってしまいました。
どこまで行っても、明るい森の出口には着きませんし、
地図に描いてある「大きな切り株の側の曲がり道」や
「古い水車小屋」でさえも、見つかりません。
暫くして、女の子は、その地図がてんで出鱈目だという事に気づきました。
可哀想な事に、ランプも、大きな樹の根っこにつまづいた拍子で
落として壊してしまいました。
女の子は、もうどうしたらいいのか分からなくなってしまったので、
泣き出してしまいます。
本当は、たったひとりで森を通る事だって、最初から心細かったので
ずっと泣きたかったのです。
でも、薬屋さんのところに行くには、その森を通るしかなく、
いっしょに行ってくれるお友達も、その女の子にはいませんでした。
どうしよう、このまま出られないで死んでしまうかもしれない、
そう思うと、次から次へと涙の粒がこぼれていきます。


そこで、誰かの大きくて温かな手が、その女の子の小さな手を握りました。
女の子はびっくりして、泣き声を上げるのを止めてしまいます。
「どうしたの?ああ、道に迷ったんだね。
僕についてきなよ、森の出口まで連れて行ってあげる。
もう大丈夫だよ、泣かないで」
森は暗いのでその誰かの顔は良く見えませんが、
女の子よりも大きな、男の子のようです。
男の子がぎゅっと抱きしめてくれたので、
女の子はようやく涙をこぼすことをやめました。
男の子に手を引かれて、女の子は森の出口と薬屋さんまで、
無事に辿りつく事ができました。
けれども、女の子はお薬を買いません。
もうお薬なんていらないくらい、
女の子は元気になった気がしたからです。
その男の子が薬屋さんだったのです。


それからというもの女の子は、
ひとりでその森を通ることが、ちっとも怖くなくなりました。
男の子が新しく地図を描いてくれたり、
もし迷っても、不思議なことに、
何処からかその男の子がやってきて
手を握って、出口まで連れて行ってくれるからです。
女の子は男の子のことを
いつの間にか大好きになってしまっていたので、
女の子はお礼がわりにいつも、
男の子をぎゅっと抱きしめるのでした。


The End.