脳の鈍い音.

時間の拘束が比較的緩かったので、日が高くなるまで寝床にいた。茫と時計を見ているうちに、まどろんでいたいという意見の「ぐうたらパート」が、命短しを日々のモットーとしている「てきぱき即決即行動派」に突如打ち負かされ、はっとして寝床から抜け出す。会社の応募要項を取りに行く、という用事に向かって前進す。

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会社の受付で美しい受付嬢から、ヴィジュアルブックと見紛う様な会社案内と応募要項を受け取る。部数限定、という意味が分かった。一冊千円くらいで売りに出せそうな懲り様だ。
その後、遅い昼食を摂りに、予め目星をつけておいたブックカフェに入る。が、私の期待からは大きく外れている店だった為に、トマトソースのパスタを平らげてそそくさと去った。
人通りの多いオープンスペースで私は食事をしたくない為、喫煙席でも良いから店の中の席を、と云うと怪訝な顔で対応された。事前に喫煙はしない旨を伝えてしまった所為だとは思うが、困った客扱いされる事は哀しいものだ。そして、ブックカフェという肩書きを掲げているにも関わらず、混雑具合と棚のつくりかたが、本を手に取る動機を削いでいた。本は喫茶スペースの隣の小スペースで売られてもいるのだが、きちんとセレクトされているのは分かるが、特別本から「愛」が感じられないので、買おうという気にはならない。そもそもすぐに混雑し、買い物客の行き来が盛んで落ち着かない場所にブックカフェがある、という事実自体、私には理解出来ない。しかし、仕方がない。もう二度と入らなければ良いだけの話だ。ただし、トマトソースにバジルとチーズがふんだんにトッピングされ、シンプルだがきちんと茹で具合への気配りが利いているパスタには満足した。

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自分で料理を作る様になった折には、パスタだけは自分が納得出来、且つ誰にも負けない茹で具合のパスタを作る事が出来るようになりたい。

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折角都会に来たのだから、と田舎者らしく、ショッピングビルをうろついて帰る事にした。和雑貨、インテリアの店で、脱臭や料理用の炭が量り売りされていた。脱臭と幾らか湿度調整を勝手に期待して、私は楽器ケースの中に備長炭を入れていたのだが、それがそろそろ換え時かと閃いて、竹炭を100グラム買った。炭は意外に軽くなかなか100グラムにならない。長時間鉢に積まれた炭をかき混ぜて適当な大きさの欠片を選んでいると、苦心しているかの様に見えたらしく、親切にも店員さんが声をかけて下さった。結局楽器ケースに詰めるのに必要な分の三、四倍程を持ち帰る。帰宅後、和紙を貼り合わせて封筒状にしたものに炭を入れ、ケースに収めた。効果は、師匠から乗り移ったヤニ臭さが消えるくらいのものだろうと思う。

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あまり頭を使わない一日であった。そういう日は、高速回転している日とは違う「音」が脳から聞こえる気がする。冷蔵庫が夜中に立てる鈍い音に似ている。爽快にはなり得ない。