譚.

楽器を抱えていると古書店に寄りにくいのが不満である。

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疲れていると、尖った声のお喋りで物分りが幾分悪く説明に手間のかかる母と話す気力がなくなる。がそのまま話さないでいると、なぜかもやもやする。母がさびしそうに見える。この人とうまくやるには、何でも構わずぶつけた方が良いのだな、と気づいた。家族と喋ろう。

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昨日に引き続いて楽団の練習に行くが、午前中は学会に行く。
研究発表は、時間制限の為に、猛スピードでレジュメや発表原稿を読む、という作業でしかなく、発表内容については興味深く感じるも、学会のあり方に疑問を感じた。読むだけならば論文集を売れば良い事、発表の場とするならば、もっと一人分の時間枠を広げて、聴衆の理解を目的にすべきだと感じた。
Power Pointは、聴く事と分かろうとする事に草臥れた脳に必須であると、痛感した。高度技術を携えている国の現代人は、どれだけ視覚に頼って生きているのか、という事も、同時に実感した。
なるほどなぁ、と呑気に構えている場合ではない。自分も、後数ヶ月後には殆ど同レヴェルにまで持っていかねばならないのだから。

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眠らずに世を明かした所為で、何度もまどろんだ。やはり、徹夜翌日でも平気で生活出来る元気は、大学時代で御終いだったらしい。
ゆったりとしたテンポの曲の合奏間に、舟を漕いだ。幸い弾き伸ばしが多いので、右手は動かしながら眠るには丁度良かった模様。
毎度の事だが、指揮者の体力と気力と声量に驚かされる。練習の終盤でダイナミックな曲を演奏した後、休憩なしに「さあ、次」と行こうとされ、奏者は呆気に獲られた。「いやいやいや…(このおっちゃん元気やなぁ)」

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楽団の練習後家族に遅れて食事を摂った後、祖母と一緒に大河ドラマを観る。近くで観ようと云って、祖母が椅子をテレヴィの前に用意してくれた。本能寺の変、をしかと見届ける、という熱意の表れらしい。
舘ひろしの信長は、今まで何度も見てきた中で、一番感動した。悪魔に魂を売ってこの世の神になったかの様な挙動と言動が印象に残った。脚本にも勿論今回は分かり易く、現在の人間の心に響く(史実に忠実かどうかは疑問だが、ドラマなのだからその点は考慮しすぎる必要はないと思う)という点で秀逸だと感じるが、頬がこけて、顎が鋭く歯がやたらと目立つ、悪魔に憑かれた信長という役者の役作りも、素晴しかった。
弾に当たって「痛いな」と云った場面が泣かせた。貴方は今も昔もうつけです、貴方はただの人間なのですよ、と何度もお濃が云っていた事を、今気づかされた、という科白だった。