よちよち歩きのお子さんをお連れの方は.

眼鏡を忘れて、楽譜が見えない。師匠に音を読ませて、その上指を楽器に置いてもらうまでの始末、三歳児の気分で誠に申し訳なかった。この程度の弟子なのだ、と思われても、もう撤回しようがない。
えらく淡白なレッスンだったな、と思い返して、呆れられたのだ、と気づく。とても遅過ぎる。どうしようもない弟子だ、どうしたものかと問いながら、バス停に滑り込んで来たバスに何も考えずに乗る。目的地には着かないバスでも、目的地に比較的近い地点で降りると、碁盤の目が目的地へと導いてくれる。方向音痴には便利な土地だとも、これだからちっとも方向音痴が改善されないのだ、とも云える。よって、何も考えずに乗ったので当然目的地へは直行しないバスだった所為で、降りた場所から半時間歩き、待ち合わせ場所に向かった。
途中、久しぶりにパン屋が輝いて見えた(つまり、パン屋製のパンを魅力的に感じた)ので、待ちびとの間食がわりになりそうなもの(パフ、という名前の、パイ生地を小さく丸めて焼いたものの上に砂糖を振ったの)と、迷った挙句暫くぶりに目にしたシナモンロールを買って出る。楽器を背負っていると、小さなパン屋には入りにくい。未だかつて、パンを床に落とす等店に迷惑をかけた事はないが、いつかやらかしそうなので、スペースに余裕があれば楽器をそこに置いてからトレーを取るか、客が多い時は入店を諦めるか、移動する際に前後をしっかり確かめるか、何かしら細心の注意を払いはしている。
待ちびととは、チェーン店のカレーを食べる。久々に会ったので、距離が分からない。睡眠不足の所為で、サラダを食べる為に手に取ったフォークで、カレーを掬おうとして、笑われた。オクラ等の野菜の入ったカレーを注文する、と云っていたくせに、無意識のうちに豚肉の入ったカレーを注文する、という奇怪な行動の後で、もうどうしようもないね、とここでまた他人に呆れられた。

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コーヒーと一緒に、フォークとナイフでゆっくり食べる予定だったシナモンロールを、再放送のドラマを観ながら、がっつく。嗜好と生活態度がおかしくなっている。
先の事はひとまず置いておいて、兎も角論文をやっつけましょうよ、と云われると、無理です、と答えるも、それでもやっつけなくてはならない事が明白過ぎて、くらくらする。

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アンティークの赤いバッグは、使ってみると案外宜しい。開閉し易く、紐の長さも良いし、目の覚める様な色も良い。そしてよく、人に褒められる。

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女性にこんな事云うのは良くないのだけど、と師匠、美人はやっぱり楽器も巧くあって欲しいよね、とおっしゃる。美人なのに楽器が物凄く(い)下手くそだとがっかりするよね、という師匠のご意見に、美人は美人だったら良いのです、という反対意見もあるらしい。同意を求められて云えた事は、美人は美人で大変、という事である。なぜなら、以上の様な期待と話題の的になり、放っておいて貰えないからだ。
ミラネージ、凄く良いですね、と云うと、師匠は嬉しそうな顔をして、ミラネージは 良いですよお、とたっぷり抑揚をつけながらしみじみ云った。