帳簿と猫の黒い背.

いつもの場所に、野良猫を見つめようと近づいていくと、先客あり。黒いコートと黒縁眼鏡で大人しそうな男子高校生が、縞猫を見ている。と、すっと手を伸ばし餌を差し出す。にゃあ、と顔を出してとことこ近づいていく猫。はにかむ彼と猫の一連の静かな動作に、後はお若いお二人で、と云いたくなる様な(実際に云った事は勿論ないが)ある種の恥ずかしさが込み上げ、そそくさとその場を後にした。

          • -

初任給が出るまでの間の費用、として母に、保険会社から祝い金として入った大金を丸々いただいたので、半分貯金し、半分は就業の支度に使う事にした。今後は自分でうまくやりくりしていかねばならず、幾ら貯金し、幾ら家に生活費として払い、幾ら自分の自由になるのか、全く見通しがたたない。兎も角、の準備として、出納帖を購入する。
一時間少々の距離を三ヶ月通勤するだけで十万円もかかる。これを会社が負担する事を考えると、人一人雇うにはかなりの費用がかかるものなのだ、と実感した。採用する側が慎重になる訳である。