或る公園の桜.

花の下で食べた、ほんの小さな鯛焼きは、その花の香りのする餡が鯛の尻尾まで詰まっていた。
魚の血液も、ちゃんと赤いのだっけ。

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まだ社員の方々に目を合わせてもらえない。何も出来ないついでに迷惑をかけていくので当たり前だと受け取る。そういう意味で、社会は大層平等である。成果と実績がなければ、権利を得る事は出来ない。義務を果たさねば、権利はない。
部長に、君は真面目だ、と云われる。最近はそういうのは時代遅れで、有言実行の世の中だから、それを弁えて頑張りたまえ、とおっしゃる。最初はこの言葉がどういう意味か分からず、花見の酒が入った後帰りの自転車こぎで涙が溢れそうになった(自分なりに精一杯頑張っているのにそりゃないよ、と)。
その言葉の解釈のひとつが、帰宅してお茶を飲んでいる時に閃いた。出来る、と云った事、受けた仕事は絶対にやり遂げる必要があり、出来ないならば最初から、出来る、と云わない事、もしくは受けない事、自分の力を見極める事、それがビジネスマナーである、と部長はおっしゃりたかったのかもしれない。出来もしないのに、断れずに引き受けて遂行出来ないのは、いくら真面目であったとしても、ビジネスの上では美徳でも何でもない、という事なのだろうか。
いずれにしても、そんな見極めや弁えは、今の自分には出来ない。それだけは云える。なぜなら、会社でまともに出来る事なんて、現時点でひとつもないのだから。

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花見は結局、仕事の延長線上の様に、緊張と少々の気遣い、急な寒波による震えで終わる。
採用される前の面接をして下さったお二人のうち一人に、君について僕はどうかと思ったけど支店長がどうしてもと云うから採った、と告げられ、自信と希望を少々失くす。
人にはもう、頼らない。与えられるのを待たない。自分ひとりで成長していく事にする。信頼は後から付属品として、自然についてくるだろう、という事だけ、頭の片隅で信じておく事にしよう。

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宴会用に敷きつめられたブルーシートだらけの公園で、桜は至極嫌そうに咲いていた。夕刻になると、蛋白質を焼く匂いと煙が立ちこめ、次第に嬌声が上がり始める。
桜が咲いている事を、花見の予定が迫ってくるまで、知らずにいた。春が来た事が、なぜか信じる事が出来ずにいる。季節感の無い気温の所為かもしれない。
そして、何時の間に月曜日が終わり、もうすぐ火曜日が終わるのだろう、とさえ呟いたりしている。