猫にまたたび.

uopus2007-06-12

或るドラマの中で、好きな俳優がおでこに、見覚えのある柄の手ぬぐいを巻いていたので、あっ、と画面を指差してしまった。もうひとかたは、牡丹の柄だった。やはりあの手ぬぐいは買うべきだ。
今日こそ、会社の近くで読書をしながら珈琲の飲める喫茶店を探すのだ、としっかり定時に上がって歩き回る。喫茶用の店はなさそうだ、と諦めかけていると、随分と年月を吸ってきた様な喫茶店が一軒、目に入る。他に客がいない事を確認して(常連客の邪魔をしては悪い気がするので)、押して良いのか引いて良いのか分からない扉を開ける。
どの豆にするのか、という事から始まって、とてもぢゃないが読書等させて貰えないであろう程に、その店のマスターは多弁であった。目論見は外れたがまあよしとして、良いものを飲ませてもらえる事に越した事はない。『コップとコッペパンとペン』を開けたり閉じたりしながら、カウンター越しの声に応える。
豆の缶に鼻を突っ込む事を許してくれたマスターは、この方が初めてだ。もう一生こうして香を嗅いでいたいです、と云うと、当たり前だ、という顔をされた。

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来月に催すという、ワインと旬の料理の会に来ないか、と云われ、勿論、と答える。普段の食事よりも値は張るが、何とか財布から出せるお金で本当に美味しいものを知る機会は、これを逃しては他にないはず、という判断からである。
誰かを誘ってどうぞ、と云われたのでひとにメールで伝えてみると、少し渋る素振りを見せたので、一晩拗ねて泣きながら眠った。金銭の価値観が合わない、というのはなかなかやり難いものである。折角の勉強なのに、たまには付き合ってくれても良いぢゃあないか、と涙を零しながらも、そんな馬鹿馬鹿しい事で泣くなやい、と徐々に腫れぼったくなる瞼を、鏡の前で擦る。