水槽から見た赤い観覧車.

窓硝子に壁が映り込んで、鬱陶しい。整理の行き届いていない部屋で探し物を探すように、硝子に映る風景から赤い観覧車を探し出す。あまりに遠い。いつかの騒がしいバーで見た観覧車は未だ戻らない。
店の半分位が硝子で、よく磨かれたそれの外には商業的な明りが散らばっている。ラッシュの時間帯の、道なりに連なった自動車のライトがのろのろと動く様子は、海月のあの透き通った体内を走る消化管か何かに似ている。
バーでは、青白くライトアップされた水槽の中を泳ぐ魚の様に、個々が騒がしく煙たくアルコール臭い、しかし比較的肌触りの良い空気の中を漂い、「捕食」していた。
宵の口の観覧車は、まだ活気があり、しきりに瞬いている。
若者で賑わう界隈の天井付近にそびえ立つその観覧車には、さすがに一人では乗る気になれないが、それはもう異常で途方のない位に、それに焦がれている。
私はその人ではなく、その人の背景について、焦がれている(のかもれない)。