天狗の団扇.

今日も風が冷たく、寒い。道端で野良猫が丸まっていた。声を掛けると返事が返ってきた。

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紅葉にはまだ早いが、名所であり観光地である場所へ散歩に行く。否、山を越える事を目標に掲げていたので、運動、と云うべきか。天狗の団扇の紋に、魔王を祭るその山には、妙に閑とした空気が流れていた。
悪天候にもかかわらず他の客も見られ、道ゆきは談笑を交えながら、のんびりと足を進めた。さすがに下りにさしかかると、膝が笑い始めた。雨で靴が浸水した所為ですっかり冷えてしまい、凍えていると、妙に「ぜんざい」「とろろそば」等の案内が目についた。
下山して休憩に入ったカフェでは偶然、チェロのカルテットが演奏していた。雰囲気も気分も良くなるが、こういう場合会話は滞る。聴き入った所為で、つい帰路に就くのが遅くなってしまった。夢見心地で電車に乗る。
空気と気持ちを沢山抱え込みたっぷりと音を響かせて、息の合う大切な仲間達と、いつか私も演奏したい。

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泣いて或る事を考えながら、全くその事とは繋がりのない本を読み筋を追う、という事を初めてした。出来るとも思っていなかった。否、実際にはそれらを同時に行っているのではなくて、本の行間や空白部分に他の思考を挿入している様だ。『風の歌を聴け』を泣きながら読む。
馬鹿、と数回云ってみた。
宙を切り水を掴もうとしている。たとえそれが成功したとしても、掌の内には何も残らない。それでも必死に私はもがく。プラスととるかマイナスととるかも、私次第だ。そんな事をするのは、一体何のためだろうか。一体何になるのだろうか。
馬鹿は私かもしれない。それで良いやら良くないやら。

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優柔油断はお互いで、まずは私がそれを破る。

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雨の中を無言で歩き続ける時、井上陽水の「傘がない」という曲を思い出す(が、聴いていたのがあまりにも前で幼かった為、おぼろげな記憶しか残っていない)。行かなくちゃ、君に会いに行かなくちゃ、という歌詞だったように記憶している。