アボカド色の指先.

もっと切羽詰まらなくちゃ、と思う。大学院生二年目で、来年は就職したいと思っているのに、こうたらたらと、本読みたいとか、楽器弾かなきゃ、とぬかして暮らしているのは、私くらいなものだと。

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南中高度が最高値を打ち出している時間に家を出て、図書館に向かう。借り出し期間が短い上に、借り出し可能点数が少ない図書館とは、至極付き合い辛い。しかも、今でこそ返却期限には気をつけているが、返却期限が過ぎるとすぐさま督促の電話が自宅にかかってくる。
そんな時は「借りたものは早くきちんと返しなさい。それくらいの事は当たり前に守るように。」と母に説教された。おかげで今では、借りたものは覚えていて可能な限り早く返すが、貸したものは忘れる、という癖がついてしまっている。 早く返さないと忘れてしまう、という質を見越しての説教だったのかもしれない、と今では思う。うっかり癖と方向音痴は母から受け継いでいるらしいので、きっと母には、子に注意しておくべき点がよく分かるのだろう。

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遅い時間に喫茶店で、高菜のやきめしを戴く。鷹の爪が高菜とよく絡んでいて、とても美味しい。殆ど御飯だけ、というこの一品は、ものによってはせっせと御飯を口に運んでいるうちに飽きてくるものだが、いちいち美味しさを感じる事が出来るものだと、飽きずに一皿平らげる事が出来る。卵のやさしさも重要である。変にぱらぱらの高級なチャーハンより、家庭的でいつものお米で作ったやきめしの方が、好きだ。
祖母が作るケチャップ味のチキンライスが一等好きだが(子どもは概してケチャップ好き)、両親が残り御飯でささっと作る、醤油味のやきめしも、たまに食べると美味しい。そうそうこれ、と思う。ざくざくっと掬ってさっさと平らげてごちそうさま、昼食終わり、そんな落ち着きのない夏休みを思い出す。
近頃の昼食はやはり素麺が多い。大量の生姜とみょうが、鶏のささ身を湯がいたものをどぽどぽと入れた汁で食べるのが、気に入っている。味にアクセントがあった方が良い。それはなるべく健康そうなもの、というのが、近頃の嗜好の傾向らしい。

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図書館帰りで草臥れた身体を寄せる店を見つける事が出来て良かった。梅雨が明けて夏らしい日々が続くと、途端に目が紫外線でやられる。視界が白く濁る。瞬くと痛い。ゆくゆくは、紫外線カット用の眼鏡でも作ろうか。

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ひとを待っている間に、古本チェーンを覗く。どうせ暫く読めはしないのに、室生犀星の本ばかり溜まっていく。全集の自惚れているかの様に最低限度な装丁に弱い。概してミニマルというセンスに弱い。(かと思えば最大限にデコラティヴのものにも惹かれるから、きっと両極端なものが好きなのだ)『ぼくが猫語を話せるわけ (中公文庫 し 18-6)』『わたしのメルヘン散歩 (ちくま文庫)』を掘り出す。いずれ読んでみたい二冊だった。
このチェーンに行くとここ一年くらい、全集、画集>100円均一の岩波文庫ちくま文庫、中公文庫>値段色々の岩波、ちくま、中公文庫>探している作家のコーナーという順序で廻る。点数の少ない文庫で掘り出し物を見つけて喜んでいる。
祖父の遺した全集を、いつかどうにかせねばならぬのか、と考えると寂しくなる。生前も生後も変わらず、洋間の飾りでしかないのが哀しい。祖母曰く、ちゃんと目を通してたわよ、との事。・・・昔の人は偉い。 貰い手は私しかいないだろうが、なんせ、独立して自分で家を構えるまで、置くスペースがない。
ましてや、全集等を古本屋に売りに出しても、無料で嫌々引き取ってもらえるだけで、どうせ雨雫が滴る軒先に一冊百円で置きっぱなしにされる事になるのだろう。
本の一生は思いのほか長く、哀しい。たらい回しにされる事もあれば、一生積んだままのものや、生まれたかと思えば絶版で無慙に散っていく本もあるのだろう。

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間食に、サルサソース付きアボカドチップスをつまむ(アボガドは正確にはアボカドという)。指先があおくなった。
宵の口に殆どお酒のつまみの様なものを食べると、変な気がする。アボカドは、いつも通り、もったりと胃におさまった。

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インターネットの最中画面が切り替わる時の、かたかた・・・という音は、古い映画から聞こえる音に似ている。

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夢の中で、恐ろしい事をしてしまった。マンドリン仲間の気の良い男性を、「命を大切にしない奴なんて大嫌いだ」(ゲド戦記)と云って平手打ちにしてしまった。しかも、二発である。他人を叩いた事も叩きたいと思う事もないのだが。 よく分からないが、兎も角吃驚した。
この謎は「ゲド戦記」を観に行く事によって解明されるのかもしれないが、生憎暇を作る目処は立っていない。