焼かれてゐた.

涼しいうちに出掛け、待ち合わせの約束をしていた友人と会う。会う、と決めてから、随分彼女の事を夢で見てきたので、久しぶりの感じが全くせず、変に照れて話が出来ないという事はなかった。月に一度寺に市が立つ日に丁度当たったので、二人して出かけ、暑さに居ても立ってもいられなくなるまで、歩き回った。名産や屋台の定番の食べ物から着物を含む衣類、日用品、骨董品、何でもある。こんなところで掘り出し物を見つけ、店の主人と会話を交わし、気前良くお金を払う事が出来たら、月一の楽しみになるだろうと想像しながら、ただ見て歩く。緑や赤、透かし模様の入った電球の傘(シェィドと云うべきだろうか。しかしやはり雰囲気として傘である)、硝子の皿、蕎麦猪口、カップ、鳥籠、小瓶、欲しいものを挙げると切が無い。どれも相場からすれば安価に違いないのに、手には入らない事が悔しい。
店の主人達は、目利きと金払いの良い客を待っている、という顔をしている。寺の敷地内で、物欲丸出しにてこうして買い付けても良いものか、という矛盾に苦笑を漏らす。
あまり暑いので、かき氷を食べた。屋台の後ろに立っているテントを覗くと、子どもばかりでなく、大人もしゃくしゃくやっている。駄菓子の様に色鮮やかなお菓子は「子どもの食べ物」と云って遠ざける大人も、かき氷だけは好きで、ずっと食べ続けるらしい。ペンギンの絵のついたファンシーなカップを持って、奇抜な色のシロップを口に運ぶ大人は、何だか可愛い。シロップはポリタンクに入れて保存している店で、決して清潔とは云い難い雰囲気だが、構わず平らげた。そういえば、祖父もかき氷やアイスクリームが、死ぬまで好きだったな、と思い出す。大の大人が、冷たくて甘いものを頬張っていた姿を。
金魚すくいの屋台を横目に見る。スレンダーな金魚も、ひらひらと泳ぐ出目金も、どちらも可愛い。小さくて赤くてぴちぴちしている。買っても数日で旅立ってしまう事が、あの賑やかな水槽からは想像がつかないのが寂しい。赤いのも良いが、墨色の出目金も乙だと近頃感じる。それは多分、この日記の名前を考えるにあたって、「文魚」という語を検索した先で見たものの所為だ。 鳥も魚も、尾が美しいのが良い。特に家鴨と出目金のそれの揺れ方には感動する。

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久々にファーストフードのセット、つまり、ハンバーガー、揚げた芋、飲み物を腹に詰め込む。350mlくらいのお茶を流し込んでも、やたらと喉が渇いた。揚げた鶏も久々に食べた。どうやって屠殺されるのか、と想像しながら食べる癖をどうにかしたい(実際目撃した事がないから、平気で口に運ぶ事が出来るのだろうとは思う)。貝類も咀嚼途中、今内臓のどこを噛んでいるか、という事を想像しそうになり、こちらは想像すると食べたくなくなる為控えている。
高級料亭で丁寧に料理される鶏もいれば、ファーストフード店でてきとうにばらされて揚げられる鶏もいるが、どちらも人間に「食料」としか見られずにあっという間に食い散らされてしまう事には変わりない。
「戴きます」と「御馳走様」は欠かせない。
・・・想像力のこういう使用法はどうなのだろう、と時々考える。
お茶で喉の渇きは癒されない。
市帰りの外国人が隣のレヂで注文していた。レヂの女の子には英語が通じたらしく、特に問題なく買えたようだった。連れらしき女性が問うた事に対して、"foreign girl"と答えたのが耳に入った。ふと、どういう意味で云ったのだろう、と分からなくなる。彼らは私にとってforeignerだが、普段彼らの目からみれば私はforeignerである。咄嗟に云った言葉なのだからきっと、彼らの目から見たforeignerという意味で使ったに違いない。

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睡眠不足と疲労で、またもや帰宅後床に直行、食事をせずに23時まで眠り込む。その間、変な夢と久々の怖い夢を見た。少々猟奇的な夢だ。もう何本か見た感触はあったが、内容はもはや獏により消化されてしまったらしく、記憶に残っていない。
変な夢では、ヨーロッパらしいところに舞い込んでいた。『ベルサイユのばら』の主人公である男装の麗人オスカルに手を引かれ、辿り着いた場所はささやかだが小奇麗な庭のある宿、女性禁制なのだと云われ、宿の一室で男装をさせられる。変身後名前を呼ばれ、王様の御前に引っ張りだされる羽目になる。どうも、姫君の婿選び兼美男コンテストが催されているらしい。どうして良いか分からず(心は現代日本に生まれた女子なのだから当たり前だ)、しぶしぶ、格好をつけてマントを翻し登場、膝を折って挨拶してみた。と、拍手が起こり、脇で見ていた誰かが、王のキスを受けよ、と云う。断る訳にはいかず、なぜか妖しくほくそえむ王のキスを軽く受ける。馬鹿馬鹿しい、とさっさとその場を後にし部屋に戻ると、後をつけて来たおじさん貴族に襲われた。次回のコンテストも出場せねば、弱みを掴んで脅迫してやる、と云いながら「核心」に触れだす、が、そのうち襲っている対象が女であると分かり、赤面しながら無言で去って行った。
ふと窓の外を見れば、周辺の家々の屋根が燃えている。どうやらクーデターが起こったらしい。
クーデターか、とりあえずこの火から逃げねば、と荷物をまとめようとすると、夢の場面が我が家に移った。下の階からピアノの音が聞こえる。こんな時に弾いては、敵に居場所を悟られるよお父さん、と焦りながら、階段を折り、両親の側に行く。「ああ、もう他の皆は逃げてしまったよ」 と、なぜかサックスがどこからか鳴り響いた。ほら見つかった。家が火炎放射機によって炎に包まれていく音と震動がする。「こうなったら家から逃げてはいけない。奴ら、燃やし尽くす気だ。」と父、もう駄目だ、私達は死んでしまうのだ、もう間も無く、と思った瞬間、目が醒めた。
この変な夢と怖い夢から醒めた後、変な夢の続きを見たいと願って再び眠りに入ると、宿の庭と燃える家から別のグロテスクな夢が展開していった。或る時間になると街は炎に包まれ、人を殺す魔物が徘徊する、という世界にあって(この間観た「サイレントヒル」の仕組みに似ている)、炎と魔物避けになるとその夢の世界では云われている鍵とケープを、私と誰だかもう一人(男性)とが家々を回って売る、という仕事を任されていた。魔物が怖くてしっかり鍵を握り締めていた手は、起きて見ると勿論からだったが、何かを握り締めていたような格好で横たわっていた。どうやら敵らしく私達を騙そうとして近づいてきた人の説明を聞いていると、どうやらその世界の舞台は沖縄らしかった。
火事の夢の解釈を色々考えている。一番思い当たったのは、父の健康への心配である。

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こう暑いと体力の消耗が激しく、文字を追う気力さえ萎えて、作業がなかなか進まない。

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ハンカチは欠かせない日々を過ごしている。突然の涙に、冷たいものから落ちる水滴に、襟のない服からはみ出した襟足に、タオル地ではなく、ぴらぴらとした薄いハンカチを便利に活用している。ちょっと若者ならざる行い。