時間を伸び縮みさせる.

疲労した身体を引きずって再び三県先に行き、今度は師匠のリサイタルを聴く。超絶技巧と珍しい曲の披露大会、と相成った。 
一度も聴いた事がないが、その場で聴き入ってしまう位の曲は存在する、と知ると、偏見無く何でも聴いてみたい気になる。二日続けて、音楽と人の幅を味わった。

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何処ぞに避暑に出掛けてしまっていた猫さん達が、いつもの「縁台」に戻り始めていた。いつもの猫背が見えた。

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都会に出たので古書店に寄る、という筋道は何だか狭い。時間が無い為、目当ての本をざっくり探して早々に発ちたかったのだ。そういう時に限って、セールをやっていたりする。駆け足で一通り見て回ったが、収穫となりそうなものはなく安心す。ただ、小奇麗なカヴァアの張られた帳面が気になった。欲しい、とは思うものの、いざ求めると後々、何を書こうか思いつかずに戸惑う事は目に見えている。白紙に対して臆病になる。よって、気安く「びりびり」といける帳面の方が、私の相棒には向いている。
Franc Francにも寄り、香のする品を一通り眺めて去る。自室に置いていた、脱臭用の炭の効力が切れた模様を慮り、たまには香の立つものを置いてみるのも良いか、と思い立った次第だが、品定めをするには時間が無さ過ぎた。
いらっしゃいませへぇ、という女性店員のお声は、一体どの器官からどうやって出しているのか、又、そういう声を出す様に教育されているのかどうか、毎回気になる。何か別の動物の鳴声の様に思える。きっとその動物は、鹿の様な身体をしているに違いない。
蟹の縦ばい (中公文庫)』を購入す。先程調べたところによると、著者の吉村昭は一ヶ月前に亡くなった(点滴の管を自ら外して)、とあり、たまたま棚に出ていたのは古書肆の策略だったのかと唸った。小説を書く事への強い執念、というか、書かずにはおれぬ気持ちを感じたので、読みたくなった次第。或る作家を、当時作者が所属していた大学文芸部の部員である女の子と連れ立って訪ねた折、作家に、君たちは許婚か、と訊かれ、違う、と答えた。しかし結局、彼女は作者の妻(作家の津村節子)となり、家に棲みついている、というエピソードがまず目につき、そういうものなのかしらん、と再び「唸る」。美辞麗句、装飾のない、飄々とした文章が在る。

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ひとには普段滅多に電話をかけない為、用事でかけた今日は戸惑った。・・・もしもし。・・・さんですか。・・・どうも。・・・こんばんは。・・・あの。ですね。いちいち沈黙が多い。沈黙の間に、料金のカウンタはかちかちと上がっているというのに。
携帯電話の時代になってからというもの、知り合いの間ではいちいち名乗る事を省くのが殆ど常識である為(画面に表示される)、個人的には非常に間合いが取り辛くて困っている。前置きと能書きが必要な、まどろこしい人間にとっては、早さが売りである便利なもの程使い辛い。

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やたらと時計が目についた。ぼんぼん時計、置時計、デジタル時計・・・。それらには決して勝てはしない。