耳猫と月兎.

二ヶ月ぶりの授業、学部二年生向けのクラスは私語が非常に鬱陶しい。私語してはいけない、というマナーを引き合いに出すまでもなく、単純にとても煩い。聞きたい音が聞こえない。
時々、他の人より耳がよく聞こえていないのではないか、と感じる。そこそこの音量で言葉を向けられているのに、聞き返す事はしばしばある。喋り方によってはよく聞き取れない。思えば、近年一度も正式な聴力検査をしていない。大学院受験の際健康診断を受け、聴力、という項目があったが、特に器具を使った検査はされずに、日常に支障をきたさない位正常な範囲で聞こえている、と判断されただけで終わった。
耳に何か悪い虫でも棲んでいて、虫下しを飲んだら、寝ている間にするするするっと抜け出て行ってくれれば良いのに。
酔いが回ると音がよく聞こえなくなっていく事に関しては、自分だけではないと思うが。

              • -

地元の大きな図書館に行き、遅くなってしまった昼食を付属の食堂で摂った。和風きのこスパゲッティ、と入る前から決めていたのは、以前母に初めてその食堂に連れられていった時、食べたものだからだ。利用は二度目になる。父が作るような、家庭の素朴な味と茹で加減だった。玉葱がまだ透明で、噛めばしゃくっと音がして少し辛かった。何とも家庭的だ(もう少し炒めた方が良いな)。
窓の外の庭を見ていると、金木犀の花が目に留まった。今年になって初めて見た金木犀の花かもしれない、少なくとも意識的に見たそれでは初めてだ。自宅の庭にも金木犀は植わっているが、去年大量に虫がついた際ごっそり剪定してしまった所為か、今年は花がつかなかった。硝子越しにでも香ってきやせぬかと橙色に視線を注いでいた丁度その時、厨房の奥から、水道の水が冷たく感じるようになったわ、という声が聞こえ、「否応無しに」季節を「痛感」させられる。調べものと複写、書きものを終えて図書館を出た時はもう辺りは真っ暗だったが、例の花の香がふっと明るく漂った。
台風の風が荒く吹く。雨はやっと一旦止んでくれた。十五夜はいつだっただろう、と思いながら外に出ると、なんとはなしに月の気配を感じた。それは妙に明るく、妙に鋭いから、見逃しようも(見逃されようも、というのも、監視されているような気になるからである)ない。いつ買おうか、と躊躇していた月見団子をやっと携えて帰ると、母も近くの食料品店で月見団子を買って帰ってきていた。
私が買ったのが粒餡、母のは漉し餡、今日は粒餡を皆でいただいた。まん丸の団子はこの地域では殆ど見かけない。先が少し尖っていて、寝そべった兎のように細長い形のものが主流らしい。

                  • -

夕飯の鰯を残しておいて、後で芋焼酎の肴にした。飲み終わったところで、母から野菜ジュース豆乳入りを作るように云われ、それも飲み終わると頂き物のジャスミンティーを二人分淹れた。飲んでばかりだ。
葉の「蕾」が開いて中から赤い花が現われる。時々、金木犀の花の欠片も一緒に吐き出す。この赤いのは何の花だろう、さあねえ、という会話が続いている。

            • -

嫁・姑問題の番組を観ていた。うまくやっていける人達も世の中にはいるのかしらん、と疑問に思い、母に訊いてみた。そりゃあ、気の合う人もいるだろうし、喧嘩ばかりでも実は仲は悪くない人もいるし、色々だわよ、との事だった。兎も角、無理して仲良くなろう、うまくやっていこう、と思わない事ね、家族でさえうまくいかないのに、他人だもの。
実際に問題に直面する事も、こんな風に実感の籠もった見解を持つ事が出来るのも先の話だ、と今は思うが、さてどうなる事やら知らぬ。