砕けて浮いた卵の黄身.

春に生まれて暑い間暫く見なかった猫が、成長して寄り合い場所にやってきていた。健康そうで安心する。他の猫にくっついてしなやかに手足を伸ばし寝転んでいる。

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出歩いている時間は相変わらずないが、同輩のよしみと仲良くしてもらっている義理で(と書きたくなる程あまり気が合っていなくとも、私が傷つかないように気を遣ってか構ってもらえている)、同輩出演の演奏会に出掛けた。会場までは、電車を下りた後、ひとと散歩がてら向かう。閑散とした街を抜けるとなると、本当にこの道で良いのか、という不安に駆られる。よそ者、として、通りすがりの住人や建物に視線を向けられているのが分かる。全店閉店してしまったらしくシャッターが下りている店の上で、錆びつきながらもそのまま頑強に張り付いている看板の、その青さが哀しいような滑稽のような、見つめるとこちらが変な心地になった。
同輩は、自身の愛する作曲家の曲で、いつも通り激しく首を振っていた。しかしその前の曲で運悪く絃を一本切ってしまったらしく、これ程不完全燃焼な演奏会はなかった、と悔しそうだった。坊主に太枠眼鏡、という目立つ格好をしている。頭の形がきれいに小さくまとまっている所為で、坊主にするのは勿体ないような、否坊主が良いような、何だか判断が下しがたくて困った。
夕飯は出会った部の同輩、先輩と一緒せずに即帰宅すると、アルミ鍋焼きうどんが待っていた。海老天と卵つき、とあるが、天麩羅に卵を合わせた経験はなく、首を傾げつつ黙って温める。黄身の固まりをもごもごやるのは好きぢゃないので、月見風にせずにさっさと潰してかき玉風にしたところ、汁が黄身の破片だらけになり見た目を台無しにしてしまった。まあ美味しければ良い。うどん以外の麺類は固めの茹で具合が好きだけれども、シリアルとうどんに入れる天麩羅はふやけた方が好き(揚げて味付けした安物の煎餅も湿気った方が良い)、という通も真っ青かもしれない偏屈さは譲れない。好き好きは、本当に面白い。
夏が終わったからか、それとも精神的に変化があったからか、拒食から過食傾向に切り替わった。またお腹を気にする季節になってしまった。

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ジェットコースターに二回も乗る夢を見た。続けて、ホラーゲーム仕立ての夢をみた。後者は、館のどこかにある鍵を二十分以内に見つけて来なければ、先のストーリーに進めない、しかも失敗したりゲームオーバーになるとまた館の前に戻ってくる、という切羽詰まった夢で非常に疲れた。
見方と見分けのつかない敵らしき人達に、悪意や呪いと共に襲いかかられる。(血飛沫が派手なゲームをやった実経験がないので、夢の中の人達は血を流さない。)なぜか自分だけ武器(といってもただの棒)も、退散させる呪文も持っていないから、逃げるしかない。鍵のあては全くなく、散々痛めつけられて気がつけばまた館の外に立っている。一度、ベランダからひとり逃げようとしたが、結局ゲームオーバーでやり直しを喰らった。いつまで立っても先に進まない。しかし進まなければ、何も終わらない。逃げは許されない。
夢を見ていても、所詮自分なのだ。自分の性格で以って、夢は進行する。
夢の中でも眠くなるとは、どうしたものだろう。