一生懸命空回り.

楽団の合宿に参加する。13時から22時まで練習、椅子の質が悪くお尻が痛くなり、前日溜め込んだ眠気に21時過ぎから襲われ地獄の思いをする。腰を痛めたという師匠が、時々悲鳴を上げておられた。そして次第次第に顔が赤くなっていく。御飯にしましょう、と云った時の顔が物凄く良かった。
合宿の幹事にあたっていたので、料金徴収とチェックインに、ひとり馬鹿みたいに駆け回る。いきなりその場でキャンセルを師匠から云い渡され、焦る(前々から感じていたのですが、師匠は私の事お嫌いですか。話がつまらない上にやけにデリケートな謎の弟子は)。予定外の事が起こっても、咄嗟に笑顔で対処出来るようになりたい。大丈夫ですよ、と自分にも他人にも云いたい。
宿泊所に落ち着いた後、ささやかな酒盛りをする。酎ハイの缶が回ってきた、と云うより、ビールが回ってこなかった、よって酎ハイを大人しく戴く。貝紐(帆立貝柱の周りにくっついているぴらぴら)が出ていたので、こっそり戴いた。噛めば噛む程味が出る肴は、ちびりちびりとやるお酒には重宝するだろう、今度熱燗の時に買って帰ろう。宿泊メンバーは私以外全員仕事を持つ人で、話は職場での事や(最近のセキュリティー対策や、困ったクライアントの事等)結婚相手の話が中心で、聞き甲斐があるものの、口を挟む隙がなくずっとお菓子(肴というより)を摘みながら笑うだけになった。この人達は、多少の事があっても冷静に何食わぬ顔で素早く対処出来るのだろうな、と思うと、やはり働きたい、もっと広い世界を見たい、という気持ちが起こって焦る。
secret、と書いてある書類を指差して、これはどういう意味、と若手に訊く年配社員に、つまりマル秘です、と答え又面倒だから、secret(マル秘)、という印を自ら作った、という話あり。女性社員と話をしたいが為だけに旅行代理店に電話をかけてくる老人の話あり。頬に傷のある某代表と取引をした際飲みの誘いを一度受けると堕ちていく、という話あり。お酒のねたには事欠かない様だった。
大人はちゃんと人の話を最初から最後まで聞いているのか分からない。時間の制限や詳しい動き等を細かに説明したところで、まり守ってはもらえないものの、肝心な事は十のうち一を云えば理解してもらえるから、事は片付く。どうすれば手際よくもたつかずに行動出来るのか、というところで十年の差を感じた。大人をお手伝いする事は逆に、こちらの成長のお手伝いをしてもらっている気がする。一生懸命だが無駄なところを、何も云わずに見守ってもらった様だ。経験値の差だ。
終了後のお酒より、風呂後に買って食べたハーゲンダッツが沁みた。冷凍庫の中にハーゲンダッツが何種か並んでおり、勘定方法とスプーンの在り処は、と目を走らせると、「手動販売機」と書かれた磁器の碗が置いてあり、そこに料金を入れる方式らしかった。手動販売機、なんて、初めて見た。成る程、手動か。

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蝉の羽化を観察する夢を見た。初めてみた、と感動していたのに、夢だった。なかなか羽が茶色くなっていかず、青磁の色にも似た、ごく薄い青緑色のままで自慢げに羽を広げていた姿が、ずっと記憶に残っている。