さびしいこと.

大学からも自宅からも離れた図書館にわざわざ出向くついでに、雑誌を読んで目に留まり気になっていた喫茶店で昼食を摂る、という予定を、前日から組んでいたので迷わず実行する。
目指していた喫茶店は、街の商店街から折れたところに位置していた。所狭しと店が立ち並び、活きの良さそうな海産物なり、ふかふかしていそうな和菓子なりが、道行く顔見知りと立ち話をする店番の横で照っていた。商店街を見て歩き、どういう街でどんな人が商いをしているのか観察するのは、とても楽しく飽きない。が、一歩ずつ踏み出す度に、よそ者、という視線が全身に刺さっていく思いがして、行ったり来たりの長居には耐えられない。 やっと喫茶店の小さな木製看板を見つけて、いそいそと横道に入る。店の扉を開けると、紫とも群青ともつかず、単純に、青、と片付けたくない様な何とも云い難い色のクッションが付いた、真新しく小奇麗な椅子達に迎えられる。落ち着きと陽気さの両方を与えてくれる、魔法の様な芸術的で感動的な色合い、とでも云うべきその色が、店全体に拡散して雰囲気をつくっていた。
折角なので、自家製、というサラダ付きのランチを注文した。サラダに盛り付けられていたトマトは、スーパーで売られている軟弱な「調教的野菜」とは違う、しっかりとした歯応えがあり、味においても、幼い頃田舎の畑で摘み取ってその場で齧った記憶を彷彿とさせるものだった。ジャムにして売っているところを見ると、自慢の品なのだろう。甘すぎず水っぽすぎず、独特の旨味があるトマトに出会うと、毎度感動する。
図書館から借りて来た瀧口修造関連の書物を、食後のコーヒーを飲み終わった後、頬杖をついて読んでいるうちに、つい気持ちよくなって暫しまどろんでしまった。水面ぎりぎりを行く魚の、背びれの光のようなものを感じて。

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学部対象教育関連の授業を受けると、彼彼女らがいかに「元気が良い」か、という事を実感する。前の席に座っていた弁のたつ女の子が、教員が話す内容に対する感想を、いちいちすぐさま隣の子に大きな声で伝える。無駄話ではないので悪い事ではないが、彼女の声が大きすぎて、教員の話が聞こえない。終いに眉間に皺が寄った。授業中の私語は、年々酷さを増している。
近頃相次ぐ自殺について、あの子達は自分の事しか見えていないのだ、自殺すれば他の人がどう思うかとか、考える事が出来なくなっているに違いない最近の子は、と彼女は大声で主張する。その云いっぷりを考えつつぶらぶらと、帰りの電車を待つ人の列に加わろうとすると、人身事故の為発車時刻に大幅な遅れが発生した、との放送が入った。十分少々の遅れは何という事もなかったが、電車は全く身動き不可能な鮨詰め状態により、暫く息をつく事さえ儘ならず。空いた後に周りを見回すと、前には膨らみ始めたお腹を摩っている女性がいるではないか。大事が必要な人達を巻き込んでも、あなたは死のうとするのですか。そう問うたところで、絶望の底から発せられる遠い声と謝罪しか返ってくるまい。少しだけ、知っている。

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古本チェーンにて、少ない持ち合わせを握りしめながら、目を皿の様にして本棚を睨む。結果的に、欲しい作家とは漢字一字違いの、全く別の作家の本を購入してしまい、落ち込む。「事故」によって新しい出会いもあるものだが、今日の「事故」に関しては殆どその要素は今のところ皆無であるが、プロレタリア文学に興味が芽生えるまでは置いておこう。
他、『ダーリンは外国人―外国人の彼と結婚したら、どーなるの?ルポ。』を共に購入、電車を待つ間の寒さ凌ぎとして純粋に愉しんだ。『母に習えばウマウマごはん』も見てみたい。あんこはタフ、というトニー氏の科白は転用したい。