拙きワルツ.

ワルツを聴くと、手を繋いで向き合った男女が、くるくると回りながらステップを踏む姿が浮かぶ。楽しい曲でも、決して踊る気分にはならないような湿っぽい曲でも、彼と彼女はくるくると回る。なぜなら、それは踊る為の曲だから。
うまくステップを踏めば、曲が身体を回してくれる。くるくる。

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廃墟探索の写真を何枚か眺めていて、ほとほと嫌になった。
人がいなくなり、取り壊されないまま廃墟と化してしまった建物には、元いた人が使っていたものや存在の形跡が残っている場合が多い。散乱した雑誌やら、未だ中身の入ったままの瓶、先祖代々の白黒写真、埃と蜘蛛の巣で白くなった神棚、角の取れた手すり、そういうものを目にしていると、もういなくなった人達の影がふと、目の前を過ぎる様な感を覚える(心霊現象、という類では全くなく、想像の話)。色々な人生の人が行ったり来たりしていたその場が、雨風の浸食と腐敗で朽ちていく姿は、あまりにも哀しすぎる。
いっそまっさらに撤去してしまいたい、と思うのは、奇麗事かもしれない。呆気無く消えてしまうものもあれば、未練だけが残りなかなか消えてくれないものもある、というのが、事の真実なのか。
知らない事が多い。知らない感情も多い。
もうすぐ冬だというのに、脂汗をかいた。
想像をかきたて過ぎる映画や風景は、苦手だ。暫く自分の実生活に戻って来れなくなる。特に許容量が小さいらしい器では、あまり多くの感情を受け止める事が出来ないので、すぐに頭を抱えたくなる。

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Bill Evansの、開放的なピアノは好ましい。散歩のように、聴く時々で抱く感情が端から違い、「道端」で様々なものを見つける事が出来る。