会話をする.

冬支度でほわほわした野良猫が、日向ぼっこの台から降りる時に、にゃ、と短く声を発したのが可愛らしくて、電車の時間を忘れて近づいた。ご機嫌なのか尻尾は天を指していて、ブーツの先数センチのところまで更に近づくと、ころっと横たわって白いお腹を見せてくれた。触れる事はせずに暫く、その、ころんころん(にゃあにゃあ)、という動きを見つめてから踵を返した。目の色が薄い。洋猫の血が混ざっているのやもしれぬ、心持ち毛も長い気がした。
こちらが去ると、何に向かってか、にゃあにゃあ、と鳴きながら、向こうは向こうで歩き去った。春の出産へ向けての発情期なのだろう。

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絃が一番気持ち良い様な、弾き方をせよ、と師匠はおっしゃる。喧嘩を売るのではなく、仲良くする様に。 なかなか実現出来ないがいつかは達成したい理想を、云い当てられた。
ふうっと呼吸をするように、散歩をするように、弾く事が出来れば良い。もっと楽に、何かを表現出来る余裕が生れる程「解放的」に、弾きたい。
首を絞めるのではなくて、腕の中のそれと会話をするように。

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一箱分あった割りピン(ペーパーファスナー)の残りが少ない。輸入物で、金色の丸い「あたま」が気に入っていて、論文や総譜等紙束を留めるのに使ってきた。いつか買い足そうと思っているうちに、同じメーカーのものの姿が消えてしまった。あの「あたま」の形でなきゃあ、と雑貨屋を探し回っている。イタリアはLUS社のもので、一箱に100個入っている。足は他社のものより長いらしい。
立ち寄った雑貨屋にはやはり無く、そのかわりになぜかお菓子包装用の紙を一巻きを手にして店を去った。ブックカヴァアにでもしよう。