愛想のない私

半年前まで、室外機の上で丸まる毛玉だったのに、と猫の背に目をやりながら、いつものコロニーを通り過ぎる。元気で、そして愛想がなくて良い。

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この日絶対やらねばならなかった事は、楽器の練習で、ひとしきり集中した後は、徹夜で抑え込んでいた睡魔に屈してしまった。Mr.Fridayも疲れているようで弁が揮わない様に感じられた、が時々突然首を項垂れる生徒に失望しての事だったとすれば、面目ない。意識のあるうちは必死にノートをまとめて(睡魔が書いた「みみず文字」の修正も含め)講義に食いついた。理解に苦しむ程理不尽な行動はあれども、生徒や研究に対する熱心さと理念は、他の教員にひけを取らない彼とも、厳しい論文審査期間が終わればお別れ、と思うとさびしい。彼から学ぶ事は多かった。
授業を終えると早々に地元に戻り、買い物をする。数日先にちいさな発表会があり、普段着で良いにしろ着古した洋服で堂々と出るのは礼儀に反するので、靴とカットソーだけさびしい財布と相談しながら選んだ。何の変哲も洒落感もない普段着を安価で購入(さすが田舎、手が出る程度の値段設定)「無難に」というやつである。靴は、先頃観た映画「薬指の標本」で主人公が履いていた靴の色に似せた。色以外、つまり、皮製で細いストラップとリボンがついていない点では全く似てもつかないが、この際雰囲気が似ていれば良いのだ。深い赤ワイン色で、やさしく滑らかな爪先が気に入っている。靴が良ければすべて良し。 
100円でやたら、揚げました、という主張の強いアップルパイを齧っていると、またもや睡魔の餌食になる。火の通り具合が不確かな林檎を、「衣」を噛んでは歯の先で追い駆けている最中に、どんどん「覚醒部分」が侵食されていく。瞼も腕も頭も重い。電車の時間を待ちながら、本を読んでいるふりをして暫く眠った。目を瞑ると暗闇が渦巻く。隣の席から笑い声がし、自分への嘲りに聞こえる。・・・寝てしまおう。
夕べがきゅっと引き締まる日は、しまった、と思う。厚手のコートにすべき日が知らず知らずのうちに来てしまった、と。そして、嗚呼遂に、と思う。寒い寒い、と足早に家までの道を歩く季節は、まだか。来たら来たで辛いが、来ないと心配になる。

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「閉じている日」は、主な出来事と行動しか、書く事が出来ない。誠につまらないが、この文章が日記である事実に、救われ、また甘えている。

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雪虫はいなくなった。