鴨を追い駆けて.

お歳暮を注文するついでに、貰った割引券で食事をしよう、と祖母が云うので家族で出かける。五千円程度の品物を7,8件に贈るなんて仕来りを、よく大人は礼儀と義理で続けているものだ。その礼儀と義理で出来た割引券で、土地のものをいただいた。幸いにして、地元の民が味わえる程には豊富で質もそこそこの肉類と魚類、野菜類がこの県にはある。その素朴な味はお百姓や漁師(或いは猟師)と、繁華街を外れれば途端に広がる田園地帯や水辺、遠くに見える山を思い出させる。決して行き過ぎた贅沢は思いつかない。我が家族も、ちょっと贅沢をしよう、と決めていた料理屋から、「誠に勝手ながら本日は閉店」という看板に追い出され、結局食堂の様な店で昼食らしい昼食を食べる事になった。鴨入りスパゲッティ(パスタ、とは書かれていない)、蜆とわかめのスープ、とは、いかにもこの土地らしい。姿のきれいな鮎を大量に見かけるのも、この土地ならではだろう。
家族が家に勢揃いすると、つい呑気を貰ってしまう。炬燵からは早々に抜け出すのが良い。部屋に行けば行くで、古書店に注文して昨日着いた『時間(とき)の園丁』と奈良氏の一冊が目に留まる。否いや、開いてはならぬ。武満徹の著作が、知らず知らずのうちに揃い始めている。早く全部に目を通したい。
古書に、武満徹のポストカード(瀧口修造武満徹展)が同封されていて、すぐさま店主に電話でお礼が云いたくなる程喜ぶ。そんなに日々頑張って生きている訳ではないのに、こんな贈り物を急に授かっても良いのだろうか。何よりこのカードを選んで下さった店主の気持ちが有り難い。
武満の若かりし頃の写真が、素晴しく美しくそして静謐で泣きそうになる。恥じらいで耳のはじっこが赤くなりそうだった。