小さな女の子へのご褒美.

論文の束を分類して、使用済み封筒に仕分けする、という単純作業を気分良く済ます。どうにか使い易く見易くならないものか、と思う。魔法で宙に浮かせる事が出来たら良いのに、杖なんかを振って。ついでに翻訳もしてもらいたい。全部英語で書かれていると、読み直すのも一苦労なのだ。
少し腕を動かしてレッスンへ行く。曲を弾く為にも、癖を意識して練習しはしたものの、やはり無駄な力が抜けてくれない上に、自分の身体の感覚も鈍い。これを改善出来ないと、どんな楽器を弾くにも不都合なのだが、根っからの鈍臭さはなかなかしつこく、そう簡単には「神」は降りて来ない。
師匠から、これをあげよう、と一年間の褒美らしきものを戴く。去年末に、月謝袋の受領印が一年分並んだので、スタンプカードよろしく何か下さい、と強請ったところ、名刺を戴いた。それを覚えてらしたのか、単に、明日誕生日なのです、と云ったからか。作曲家の肖像が掘り込まれたメダルのキーホルダーを頂戴する。コンクールの参加賞らしく、以前までそのコンクールの審査員を務めておられた師匠は、幾つも持っているから要らない、との事。何だか、小さな子どもみたいな気分になったが、師匠から見れば未だほんの小さな女の子に違いないのだ、私は。大人の前で、結婚、という単語を口にしたところで、けっこん、としか発音出来ていない気がする。結婚、ではなくて。
基礎を習いたい、という後輩をレッスンに連れて行った。そういえば師匠が今日はやけに丁寧で愛想が良かったのは、あまりに美人でかわいらしい後輩を気に入ったからに違いない、と思い出し笑いをするのにも、もう慣れた。どうですかわいい子でしょ、感謝して下さいよ、師匠。

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駅のホームで、二日前に出会った金髪の兄ちゃんに、再び出くわさないか、と少しだけ見回してみた。クリスマスの幻影だったのかもしれないなあ。
今日になって、あの日どこかにハンカチを落してきた事に気がつく。ティッシュペーパーもいつの間にか空っぽになっていた。