早食い、惨敗.

娘の運動不足を解消させるべく、夫婦は彼女を、大盛況真っ只中であるはずの清水寺へと連れ出した。
論文があるから、と渋ってはみたが、結局押し切られて行ってみれば、坂の途中で研究室の同期の顔を見て取った。が、正月くらいは休んで良いのか、という気にはならずに、観光気分で盛り上がっていた頭に論文の心配が過ぎっただけだった。
寺へと続く坂の途中で、昼食を摂ろうとするが、当たり前だがどの店も空きがない。ばたばたと足音を立てて忙しそうに立ち回っているのが哀れで、正月くらい休む規則を作れば良いのに、とさえ思う。やたらと値の張る鍋焼き饂飩に、七味唐辛子をわんさか振って食べていると、2007と書かれた蒲鉾が顔を覗かせた。人だかりは毎分二メートル程の速度で徐々に寺に登って行く。時々、良い匂いにつられて脱落者数名有り。
どこへ行っても、抹茶抹茶、とはしゃぐ母を先読みした父が、坂の途中で三人分、抹茶のソフトクリームを買ってきた。どこにでもある抹茶ソフトに、八ツ橋が刺さっている。水分を含むと次第にもちもちとした食感が現れる八ツ橋(生ではなく)でクリームを掬う。
ソフトクリームに対して、苦手意識を持っている。食べるのが遅いのか、要領が悪いのか、アイスクリームより緩いので食べているうちに上から下からと溶け出して、手と、運が悪ければ靴や服を汚してしまう事が、幼い頃は多かった。よって、長じてもソフトクリームを目の前に差し出された折には、身構えてしまうのだ。
母と父のように手早く食べてしまおう、といつも通り躍起になって、コーンの上のクリームをせっせと片付けるも、なぜかなかなか彼らに追いつかない。やっと事なきを得たかと思いきや、数十分後に腹痛が始まり、坂から降り終わって高台寺の辺りに来た時には、すっかり無言になっていた。嫌な内容のおみくじ(小吉)を引いても、夢餅を渡されても、寄せては返す波に無言にさせられた。忘れていたが、アイスクリームを食べると腹痛を起こし易いのもまた、癖だったのだ。しかし今回は、両親の早食いの所為としか思えない。
清水寺へは、就職祈願と色々な人達との良縁を期待して、縁結びを買っただけで、清水の舞台を見る前に引き返した。あまりにも人が多く、毎分二メートルで往復して再び坂まで戻って来たらば、きっと夜になってしまったに違いない。
知恩院で、湯葉饅頭とやらを買って、熱い熱いと手の中で転がしながら、三人で食べた。一体何処に湯葉が入っているのか発見し難いが、よく見てみると、ひき肉(肉まんの具)が湯葉に包まれているのである。
良い正月だった。

                  • -

帰りに、百貨店の地下で惣菜を買って帰る、という両親と別れて、買い足す必要のあった化粧品を見る。店員に試し塗りをしてもらっている横を、買い物を終えた両親が丁度通って行った。