掌の鈍い痛み.

演奏会間近の合宿が二日目に入り、いよいよ切羽詰まり出す。
宿泊所には宿泊せずに帰宅し、一番乗りで練習場入りしてみたものの、練習するにもどこから手をつけて良いやら分からずに、他の人の音を聞きながら暫く指慣らしをしていた。
基本がなっていなくてうまく指示を実践する事が出来ないこの惨めさを、もう二度と味わう事の無い様に。

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二割程の頭は、自宅に向いていたがこれは仕方ない。雨戸を閉めなくては、食事の用意をせねば、家事をせねば、等と練習中に考えている団員は、新婚の人と私くらいだっただろう。
音楽は趣味以上だと自分では位置づけているが、所詮娯楽なのでしょ、と他人もしくは奏者の不出来に怒る指揮者に云われると、そうだけれどそうじゃないから、そういう事は云わないで、と何ともややこしい返事が浮かぶ。

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癖の為に徐々に増す手の痛みが限界に達するまでに、何とか練習は終わった。帰宅してから暫く、痛みと指揮者の厳しい言葉が、疲れた身体に鈍く響いていた。