小さな身体達.


樹に止まっていた小鳥の群れが、頭上へと一斉に羽ばたく、ばたばたという音とその勢いが、甘い焦燥を掻き立てる。

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論理チャートとクレペリン検査(隣り合わせの数字を足し続けていく試験)は、いい匂いのする美人の笑顔同様、情の無い表情で目の前に現れて消えて行った。マシンの精度を検査するのと同じ様な扱いをされている、と自嘲しつつ、実は嫌いではない検査をひとつずつ潰す。・・・嫌いではないけれども、足し続けているうちに、何をどうして良いのか分からない瞬間が訪れる頻度が増して行く。それでも手は動いているのだから、自分がよく分からない。一時間程、機械化した。
機械化した身体を人間に戻すべく、三駅分程歩く。と云っても、大した事のない距離であり、人間が怠けてこんな至近距離に停車駅を設けただけの事なのだが。
途中、自宅を出る前に電話にデータを取り込んで来た地図を頼りに、ブックカフェに寄る。この街の雑居ビルに入ると、たびたび古めかしいエレベーターに遭遇する。釦を押すと扉がすぐさま閉まったり、びいぃ、と背筋が縮む様な音を立てるので危険ではあるが、その旧式具合愛しさに残されている様子である。
 

クランベリーの入った素朴なブラウニーとコーヒーを、本棚を背にいただく。目の前は、強化硝子越しに灰色のビルが何棟も並んでいる。人の気配や物哀しさを感じる事はない。無口なだけなのだ、と思わせる界隈である。

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夕飯は、珍しく母と、讃岐饂飩屋と銘打ちながら、饂飩の献立以外は殆ど居酒屋である店で摂る。居酒屋御飯を突きながら、何やかやと喋っているうちに、うまい事お腹が満たされた。梅酒を注文した後で、車で来ている事に気がついた母に代わり、梅酒ロックを飲み干す。母と居酒屋でお酒を飲む、とは変な心地がした。父ともそんな機会は無かったと云うに。
変わった日だった。