味のしない不安.

母の誕生日、一緒にクレーム・ブリュレを食べた。暫く冷蔵庫に入れられていた所為か、折角のキャラメリゼが液体化してしまっていたが、香ばしさは健在で、概ね満足する。容器の縁にへばりついて残っていた砂糖まで、手遊びをする様に、スプウンで削り落とす、という作業に一時没頭した。世の中のものは、自分の思い通りにも、完全に美しくも、ならないものなのだ、と大きな事を考えながら、アルミカップをひしゃげる。星型になった。

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明後日出演する演奏会の衣装を、未だ選んでいなかったので、午前中から急いで見に出掛ける。裾直しが必要になれば、通常なら間に合わないか相当ぎりぎりの期間に突入してしまっている事を、今更ながら反省する。直前になって急ぐ癖が出てしまった。
一軒目で大体の当たりをつけておいて、その後電車に乗って数軒回り、最終的に一軒目で見たものに落ち着いた。裾直しも、申し訳ないと思いながら、ちょっと出来かねます、というよく分からない日本語を話す店員に困った顔をしてみせ、一日半後の仕上がりを約束させた。

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どんなに急いでいても、正常に空腹はやってきて、新しく出来ていた地元では珍しく少し垢抜けた雰囲気のカフェに入る。食事をします、と店員に告げると、腕時計に目をやられる位の時間だったが、食事用のメニュー表が水出し紅茶と共に無事運ばれて来たので、時間を気にせずチキン入りドリアを注文した。
食後のコーヒーを置き、続いてミルクと砂糖を「セッティング」した後、お砂糖は三温糖になっております、と云って顔を上げた男性店員と目が合った。そこでなぜかお互い、驚いた様な目をしてしまい(びく、ではなく、どき、の方)、レヂでの会計の際も、妙な空気が流れた。一目惚れとは、こんな風にして訪れるのかもしれない。惚れた訳ではないけれども、あの透徹した清く滑らかな目は、とても良かった。(また会いに行くかも、しれません。ショップカードに営業日時が書いていないのは、何故ですか。)