黒猫ビルヂング.

証明写真を写真館で撮ってもらう。朝鏡で確認した顔と、如何にも不安一杯で不器用そうな顔をして写真になっている顔とは、全然違う。世間用の顔なら、もっと作ってでも笑っていて欲しい。正直過ぎる。おかっぱに近いストレートヘアにしたのが悪かったのかもしれない。技師さんに困った顔をされながら、写真を選び、すみません、という言葉を矢鱈浴びせかけられながら、会計後送り出される。
面接会場に早めに着き、余計な事を考えずに、本日のランチ、を注文すると、魚のフライにたっぷりトマトソースをかけたものが出てきた。・・・魚か。
白いシャツにソースが飛んだらまずい、と注意し出したのは、無心状態で半分位食べたところで時すでに遅く、コーヒーを飲み終わった後に、滲み抜きの為に御手洗いに行かねばならなかった。(幸い、上着を着れば隠れる位置に跳ねていて、大事に至らずに済んだ)

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黒猫がビルの側面を走っていったのを追いかける。コンビニのゴミ置き場をごそごそやっているところでやっと追いつき、目を合わせるも、お互いどう出れば良いのか分からず気まずいまま、去る事になった。シトロン色の瞳と、わりと艶のある真っ黒な猫だった。警戒もせず、自分からは近づこうとしない、内気なビル猫とは気が合いそうなものだ。

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その付近に足を伸ばす事があれば必ず寄る、気に入りの古書店に寄り、最近の品揃えを一通り眺めた後『使いみちのない風景 (中公文庫)』を買う。新刊で買う事の出来る文庫は、古本チェーン店以外の古本屋で買う事は殆どないのだが、その時その日に読みたい、持っていたい、と感じたので、定価の半額で連れ出した。
この店は、或る程度長居していると、レヂで本を差し出すと、お決まりですか、と声がかかる。ほにゃほにゃほにゃにゃ、と聞こえそうな店主ご夫妻の旦那様の方の声は、何時でも眠たげである。