ふらふらとあがる湯気.

会社から突然、「宅地建物取引主任者資格」略して「宅建」を取得せよ、と指令が下ったので、同じ様に白羽の矢が立った(この言葉は、良い意味を含む文章で使用するには不向きだと思う)同僚と共に、予備校の梯子をする。どの学校も、一生懸命説明して見積りを出してくれるが、値段と内容共に大体同じ様な内容に聞こえるので、結局立地と便利さで選んでしまった。全国展開はしていない小さな学校で、同僚が値切りだしたので驚く。さすが商いの土地の者である。
その商いの街も、夕方近くは湿気と町ゆく人の温度、所狭しと並ぶ飲食店が排出する熱気で蒸しかえる時期を迎えつつある。
兎にも角にも、見るからに暑苦しい土地である。

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宅建の試験は今年の十月下旬で、指令内容は、受験せよ、ではなく、取得せよ、である為、終了するまで娯楽に費やす時間は消え去った、と云って良い。

鈴カステラが、妙に食べたくなり携えて帰る。お皿にぽろぽろと取り出して、指でくるくると回してひとつ、口に運ぶ。時折摘んで、固さ或いは柔らかさを確認してみたりもする。一体誰が、小さいサイズのカステラを鈴の形にしてやろう、と思い付いたのだろうか。ベビーカステラから鈴を連想出来るものなのだろうか(出来てしまったのだろう)。
ぽろぽろぽくぽく、とやっているうちに、袋が半分程空いたので、木製洗濯ばさみで封をして机の抽斗に突っ込む。
寝台の囲いに凭れ掛かり、お茶で一息つく。そのまま、ころりと横になると最後で、気が付けば次の朝がやって来ている。