その道.

仕事で時折耳にする言葉が美しい。
蝶番、は「ちょうつがい」と呼ばずに「ちょうばん」と呼ぶのが残念だが、泪目(なみだめ)、鬼目(おにめ)、等細々とした道具や器具の名前が、時々耳を潤す。
雑巾吊り(ぞうきんづり)、という部位があるのだが、何度説明を受けても実物を示されるまでは、一体どんなものなのだか理解出来ないでいる。雑巾を吊っていたところ、らしいが。

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金銭的余裕はないがそのままでは帰宅出来ない程空腹だった為、ミルクティ一杯を飲みに喫茶店に入る。
ミルクの泡で、与謝野晶子『みだれ髪』の表紙に書かれている様な女性の顔が描かれて出てきた。客のイメージに合わせて描いているのではない事を願う。私はあれ程、情熱的ではない。宅建受験申し込みの為に撮影したスピード写真の自分は、隙あらば今すぐにでも眠りに落ちそうな顔をしていた。やる気も締まりもない顔である。