人の潤み.

湿気が増し、どこもかしこも、結露と発汗の世界である。生き物の放つ熱で、世界は潤む。電車に乗れば、薄い水の服をぴったりと纏っている様な感覚に襲われる。どこに行っても水の気配を感じる。

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仕事の後、重い鞄を抱えて、資格学校に乗り込む。ノートを取っている暇は寸分もない程、直前超速習のコースである為、付箋と原色のボールペン一本でテキストを埋め尽くす事にした。折角意気込んで買った、三冊のつばめノートも、出番なしになりそうである。
赤字の多いテキストに、青のボールペンを走らせる。文字をぐるりぐるりと大胆に囲み、蛍光黄緑の付箋にコメントを書き取る。学生の頃から、美しいままにしておきたい本については、うんと過保護にし、頭に叩き込みたい本については、徹底的に汚してきた。こうでなくちゃならない、という規範が多いのだ。
全くもって興味が湧かない内容ではないが、積極的に勉強したいと思う内容でもなく、いつも戸惑いがちにテキストを開いている。興味のある分野とそうでない分野の差が激しかった学生時代を思い返すと、今回の勉学は先行きが読めない。しかし、成績が悪くとも単位さえ取得出来れば差し障りがなかった学生時代は、今後の処遇に関わるこの「仕事」とは全く違うからなのか、勉強したくない、とは思わない。