しめしめ.

uopus2007-07-13

台風が迫ってきているから、というだけで、女性に早い午後に帰宅指令が下った。外は、通常の雨降りの日、という具合で、天気予報をネットで調べてみても、雷注意報、という「ざこ」な報しか出ていない。まだ仕事がしたいのに、と思いながらも、地元に入る前に電車が止まると困るので、15時に退社する事にした。
が、真っ直ぐ帰る気にもならず、以前目星をつけていたが未だ入った事がなかったアンティーク店に寄る事にする。新しい楽器のケースに目印として付ける、ピンバッチかブローチが欲しい。懐に潤いがない時は、食器類には手を出さない。切りがないのだ。フランスやロシアからの舶来品、アメリカからのファイアキング等が陳列されている。ありきたりなエッフェル塔に毎度惹かれてしまうも、或る意味隠微なそれをぶら下げて町を歩く気にはなれないので持たない事にしている。
結局これというものには出会わず、目の保養効果だけ覚えて、ビルの階段を下りる。入店する前と比べ、一段と雨脚は強まっていたが、それでも台風の気配は未だ感じられない。排気ガスと塵で黒ずんだ町は、雨垂れにより殆どモノクロになっていた。

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自宅付近を、早退した後ろめたさを少々背に背負いながら、歩く。或る人の事を突然思い出し又思考から追い出そうとしているところへ、張本人が向こうから歩いてくるのがちらりと見えた。動じる事はない、もう赤の他人なのだ、と思う一方で、足取りは早まる。
何でもないよ、と相手ではなく自分に云い聞かせる為に、傘の柄をくるくる回して歩いた。こんな歳で傘を回し、ついでに早足で歩く風景は、さぞや気味悪く写るだろうが、きっとその人はこちらには気を向けはしないだろう。
急な回想と邂逅の所為で気分が悪くなり、夕飯までは結局、寝台の上で過ごした。