fall.

「枯葉」を何度か耳にする様になり、季節はやっと移り変わる様子を見せ始めた。「枯葉」の歌い手はイヴ・モンタンでない事が多く、大抵は煙たくほろ苦いジャズ・ヴァージョンか、ビル・エヴァンズの創作的なヴァージョンである。

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仕事を終えてビルのホールへ出ると、硝子越しにすっかり陽の落ちたオフィス街が見る。退社はそれ程遅い時間ではなく、むしろ夜型の人間にはこれからであろう時間帯なのだが、朝早く自宅を出宵の口にさっさと帰宅してしまう自分にとっては、その夕闇は一つの「終わり」を意味する。
肌寒く感じる風を浴びて、街中に足を進める。この商いの土地は、都よりもずっと人の気配で暑苦しく汗臭いはずだが、オフィス街ともなると、心此処に在らず、というビジネスマン達の無表情さで常に薄ら寒く、一方でビルの合間から降り注ぐ直射日光がつるりとした無表情に反射するので、無慈悲な暑さを感じる時もある。
自分も負けずに無表情で電車に乗り、帰宅して寝台に横たわる。窓は、夏の癖で夜も開け放ってある。少し先の尖った風が流れ着き、和菓子屋の店頭で揺れていたススキの穂や、澄んだ風越しに見た家々の灯り、をぼやりと思い出した時、秋は好きぢゃない、と気づいた。
秋の夜は寂しい。もうすぐ迎える冬、年末に向けての懸念が焦燥を招く。何よりこの素晴らしい季節は、すぐに駆け抜けて居なくなってしまう。葉が落ちれば、厳しい冬が来る。
居なくなる位ならいっそ来ないで欲しい。早く冬が来れば良い、私を懲らしめる為に。
こんなに良い季節なのに、隣には誰も居ない。
秋は嫌いだ。