エレベーターに溜まったため息.

エレベーターで、ふぅ、とため息をつこうとしたらば、一瞬後に乗ってきた男性に先を越されて、タイミングを逸した。皆どこかで息をつきたがっている。大勢の前ではつけない類の息を、顔見知りがいない場所で。
エレベーターには当然監視カメラが仕掛けられている訳だが、そう思うと、エレベーター内では監視されても良い様な行動しか取れない。例えば、鼻唄や居眠り位なら良い。人が気を抜いた時の行動は、どんなものなのだろうか。エレベーター内を観察するのは少々楽しそうである。ちょっと野暮なところにも惹かれる。

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チェコ等の東欧の雑貨を扱っている店を30分程、品定めの為にぐるぐると歩き回った後帰途に就いた。自宅最寄り駅に着くまでの間、車窓にもたれて惰眠を貪った。最寄駅に着いて降りた時、鼻から吸った空気と視界に入る風景の色が、いつものそれらとは違う様な気がした。日本とは思えなかったのだ。ヨーロッパ、ましてやチェコになんて行った事はなく、チェコの空気や風景がどんなものか、全く想像がつかないのにも関わらず、一瞬だけチェコの空気を嗅いだ気がした。恐らく、雑貨店に30分も居座った所為で、その店に染み付いたチェコ的な何かが少し、身体にくっついたのだろう。
季節の変り目の宵には、どこへだって旅する事が出来る。