travelling cow books in Kyoto.

uopus2009-05-04

続休暇が晴れ続き、という事は滅多にない、とラジオの天気予報で耳にした。が今年は珍しく晴天に恵まれそうです、と予報士が嬉しそうに告げていたので、特に焦って予定を組む必要もなく、行き当たりばったりで休暇を過ごしている。その日の予定は、朝目覚めて、着る服を頭の中で探すのと併せて考える。服と予定が決まったら、あと何分後に布団から抜けて、どんな朝食にするか(パンかご飯か等)を決める。そういう事は前夜に決めておけば時間を浪費しないのかもしれない。けれども、極めて気分屋で優柔不断、尚且つ「寝坊助」(ねぼすけ)なので、前夜に完璧に計画したところで(計画を組む事だけは完璧)それを実行出来た例がない。結局どんな行動が「人生における浪費」に繋がるのか、その結論は十人十色であろう。
晴天続きと云っても、さすがの連休中日は分厚い雲に覆われた。今日明日と、5月の連休恒例の移動書店カーが、学生時代行きつけだった書店にやって来る。しっかり寝坊の床から抜け出して、陽が傾き出した時間なのを全く気にせずに、ローカル線を乗り継いで書店へ出掛けた。そらが灰色の時は、一際明るい色を身なりに取り入れたい、と思うのは私だけなのか、もしくは私の「明るい色」基準が極端過ぎるのか、寒色のパステルカラーが多くを占める町ですっかり浮いている。梅雨が来るまで、真っ赤なトレンチコートとオイルクロスの手提げ(雨の日用)を封印しておくべきだろうか。

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近頃は全く書籍には苦労していない。読む本は自室に溢れているので、書店に行っても渇望感を抱かない。お腹一杯、間に合っている。いつもの書店はいつかそのうち「お腹がすいた」時にゆっくり見る事にして、買い物は移動書店カーでのみに留まった。『益子焼 やきものの里』(清水裕子 三一書房)を購入。骨董品店やギャラリー兼食器屋を時々覗くも、不勉強な上に若輩者である事も手伝って、店主と話す事で得られる「経験値」が一向に上がっていかないのが悔しいので、少々焼物について勉強してみよう、という試みの現れである。
書店カーに並べられていた古書はどれも魅力的で、状態含めて選び抜かれた良品だが、やはり今はお腹一杯なので二度三度手に取りいつもの様にうんうん唸って悩む事なく、前述の一冊だけレヂに運ぶ。他、鉛で出来たアルファベットが目に付いたので、普段何故か何かと縁深いDも一緒に。Qもオブジェとして見た時ユニークで心惹かれるけれども、こういう一点ものはそう多くは必要ない。
移動書店のオーナー松浦弥太郎*1が今回はいらっしゃっていた。ここ半年間で5冊もの新刊を世に送り出しファンを大いに喜ばせた、その一方でご本人は超多忙であるはずだが、そんな中にあっても移動書店というご自身の原点を疎かにしないところが、とても氏らしい。
尊敬する人というのは、すぐ側に立っていても自分とは物凄く遠い世界に居る様な気がする。同じ空気を吸い、今この時同じものを見ている、という事実が無効になりそうな位、遠い。(一昨日歌舞伎で中村一派を間近に見た時も同じ気持ちを抱いた。)氏は、ジャケットで年相応の大人らしさを出した上に、靴とストールでくつろぎと個性を重ねた着こなしっぷりが清々しく、何よりすっと伸びた背筋が美しかった。自分の親を否定する訳ではないが、氏の様な大人になりたい(性別は違えども)と思っている。

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年に数回しか行かなくなったが或る程度の頻度でどうしても行きたくなるカフェがある。学生時代行きつけだった書店の側にあるので、書店に用がある時は必ず立ち寄る。コーヒーはとろりと甘く身体に沁み渡る味と舌触り、デザートは見掛けは一流ではないけれどきっと美味しい事が何となく分かる。年を重ねると共に生じる変化を発見するのは楽しいが、年を重ねても変わらないものに安心を覚え、また新たな長居の時間を紡ぎたくなるのだ。変わっても良いけれど変わって欲しくないのが、誰しもの本音に違いない。店主のご夫婦は今日も寡黙だが、糸一本でしっかり繋がっている感じがやはり変わらない。まるで糸電話の様に、小さな震え一つも伝え合っているふぜい(実際のところは知れないけれども)。
倹約の為カフェ通いの頻度を落としている為、手帖を開いて文章を書きつける機会も必然的に減った。しばらく書いていないからもうすっかり書けなくなってしまっているんぢゃないだろうか、と半ば諦めていた。ところが、たまたまカフェ併設のギャラリーで感想でも書くか、と書き始めると、鉛筆を握った手がなかなか止まらなず逆に困った。書いたものの質は落ちているに違いないが、まだしばらく手帖と鉛筆を持ち歩いている甲斐はありそうだ。

*1:中目黒にある書店cow booksオーナー、書籍商で文筆家、雑誌『暮しの手帖』現編集長。去年から今年にかけては特に意欲的に文筆活動をなさっている。インターネットでは、エッセイがこちらで読める。