終わった日々.

仕事帰りに大学に行けば、一日はこれからだ、と云わんばかりに学生が活動している姿を目にする。良いなあ、と思う一方で、自分はもう違ってしまったのだ、という寂しさが込み上げる。ステージをひとつ、違えてしまっている、すでに。ボックス前の木テーブル…

子どもの目.

コーヒーチェーンで、ソーセージクロワッサンとコーヒーを流し込み、電車の時間に合わせて店を出て、師匠宅に向かう。 古都のバスに乗り込むと、隣の席から外国語が聞こえてきた。さえずりか相槌の様な、短くこじんまりとした言葉で、どうやら大陸の北の言葉…

二日酔いとの付き合い.

胃がすかすかで若干気分が良くない為、昼食を多めに摂った。が、それでもすかすかは消えず、そこでやっと二日酔い気味である事に気がついた。頭がくらくらで胃がすかすか、というタイプの二日酔いの時は、PC作業が一番辛い事にも気づいた。白い画面がちか…

夜の人達.

会社の集まりの後食事会になり、その二次会に夜の街に連れ出され、行き着いた先は「夜の店」だった。お酒と女性に囲まれて良い気分にやり込められている男性との会話を差し置いて、美しく着飾り品と行儀を身につけ、こんな遅い時間に男性をもてなしている女…

おやつを貰いに.

先週行った珈琲屋に、ワインの会の予約を入れに行く。新しく入った香ばしい珈琲をお供に会話を重ねていると、最初は小さな饅頭、次に大きなシュークリーム半分が出てきた。すっかり、おじいさんのところにおやつを貰いに来た小学生、の様になっている。ちゃ…

あまりに騒がし過ぎるので.

楽団の活動参加について、実質的に無理になるまで止めません、とコンサートマスターに宣言したからか、自分の音楽に絶望しても、参加を諦めるという決断には至りそうにない。気持ちはあるのに状況が有無を云わさない時が、いつか来る予感がするからかもしれ…

相応についての気鬱.

服装にあれこれ悩んだ挙句、やっとの事で、こちらにしよう、と決着をつけ、身繕いをしているところに父が、もうちょっと若い格好をしたら、と云うので、落ち込んで再び部屋に戻る。結局、悩んだ末決着をつける前に手にしていたものを着込んで、憂鬱を抱きな…

気を興す.

一度飲んでみて首を傾げたはずの、ウーロンチャイ、という飲み物を再び手に取り、手に取る事はあるまい、としていた『Land Land Land―旅するA to Z (ちくま文庫)』を、ソファに埋まって読みふける。書を捨てて町に出なくてはならない気分を興した。 - 生じて…

ラム酒一杯、ひとり旅.

会社社長が来るというので念の為空けておいた外食予定が、「ふい」になったので、ひとりで街に繰り出す。 ひとりでお酒を一杯飲んで帰りたくなった日に寄るカフェの、アルコホル一杯無料チケットを財布の中に見つけたので、丁度良かった。茄子と肉味噌あんか…

けものの道行き.

暖かくなった頃合を見計らって、痩せ野良猫の仮称ノラが、我が近所に帰ってきた。なぜこの辺に居つきたがるのかしらね、と母と話した数日後、ひとつの答えはお隣さんから返ってきた。 隣の家では以前より猫を一匹飼っている。完全に「家猫」で、外には決して…

猫にまたたび.

或るドラマの中で、好きな俳優がおでこに、見覚えのある柄の手ぬぐいを巻いていたので、あっ、と画面を指差してしまった。もうひとかたは、牡丹の柄だった。やはりあの手ぬぐいは買うべきだ。 今日こそ、会社の近くで読書をしながら珈琲の飲める喫茶店を探す…

かみの舞.

仕事で、地鎮祭、という行事に立ち会う。形式だけのものだが、その厳かさやもの珍しさに息を呑んだ。 浅葱色の羽織をつけ、黒いぽっくりを履いた神主が、小さな祠の前で行ったり来たりし、時折神を呼び出す為に、人の言葉ではない言葉を祠に向かって発する。…

手の届かないもの.

人間はこの世の何の役に立っているのだろう、という果てない疑問への回答を練りつつ、昨夜の残りのパスタを咀嚼する。 具の小さな蛸ばかり皿に残すのを父が見つけて、蛸嫌いなんか、と面白がって訊くので、なるべく億劫に聞こえる様に、好きだから、と答える…

大買い物魔の一日.

昨年の今頃は未だほんの毛玉だった猫のうち二匹を、夜道で見つけた。買い物の紙袋ががさごそ云うのを、目で追う。子猫らしく、もこもこでころころの身体をしていて、大層愛らしい。 構ってくれないので諦めて歩きだすと、遠くの方にまた猫のシルエット有り。…

真実、暗い夜.

暗いなかで橙色の焔が揺れている、という風景に最上級の安らぎを感じるこの遺伝子は、何時から存在しているのだろうか。暗いなかで何をしているのよ、とぱちりと電灯を点けられる事もあり、単なる好みか「性分」のひとつなのかしらん、とも、時々思う。 陰翳…

若気の驕り.

自室で育てている緑が冬の間、ぽろぽろと葉を落とし元気を失くしていくのを見かねて、復活する望みが薄い枝を何本か切った。が、葉がついているのに捨ててしまうのは勿体無く感じられたので、瓶に挿して暫く様子を見ていたところ、いつの間にか根を生やし始…

雨ざあざあ.

六月六日を迎えると、「かわいいコックさん」の唱を思い出す。雨が降らないと違和感を覚える程である。如何にも降りそうな日取りだというのに。 空調の所為で身体が凍りつきそうになる電車の中から、木の葉が、風にざわざわと揺られているのを、茫と眺める。…

羽音.

深夜に、翌朝着て出るスカートにアイロンをあてる。「お互い」慣れてきたのか、すっと皺が伸びる。当て布代わりのハンカチを、最後にぴしりと仕上げて抽斗に仕舞う作業がとても好きだ。さてこれで明日も快適だ、と満面の笑みを浮かべて、スチーム用の水を捨…

前に倣え.

月曜と水曜は、少しつまらない。なぜなら、これらの曜日が定休日のカフェが多いからである。大人しく自宅に直帰して英気を養うのが良い。 寄り道をしない代わりに(途中下車するにも身体が動かなかったので)、雑誌を読みながら甘いものを食べてゆっくりしよ…

good sentences.

去年の今頃は、民家の隅っこに小さな毛玉みたいな子猫が寄り集まっていたものだが、今年は見かけない。もっと心地良い場所を見つけたのだろうか。相変わらずやせ細って今にも消えそうなノラは、見つめてやると億劫そうに民家の隙間に入っていく。 - 雨の日や…

港の甘い「ド」.

先週断念した、ミイラの展示会を見に行く。現在の研究では、包帯を解く事でミイラ標本を再起不能にする、という作業を避け、CTスキャンの活用で調査が進められているらしい。入り口で観客全員に、青色に縁取られた3D映像鑑賞用眼鏡が配られた。目の前に…

それから.

今いる部署に配属されて、約二ヶ月が経った。自分では別段期間等気にしていないが、上司にとっては「そろそろ」の様で、一人呼び出されてみれば調子伺いだった。毎日が嫌で嫌で仕方がない、と嘆く同世代がいる中で、これ以上恵まれた環境をどう望めというの…

病がちな音楽.

世界から落ちそうになる。 自分の内のどろどろした部分を少しでも見せる事が、怖く感じらる。具体的には、曲を通して、こういう感情を出したい、と主張する事が怖い。そればかりか、音楽という表現行為から離れたい、とすら感じられる。恐ろしいまでの虚脱感…

刻み生姜にごま塩振って.

前日の晩に拵えた焼き饂飩を、白い琺瑯の弁当箱に詰めて持っていく。醤油仕込みのそれは、やさしい味がして冷めても美味しい。薄紅色の刻んだ生姜が、目にも舌にも爽やかである。他の誰に食べさせる訳もないので、冷蔵庫にある野菜やらを何でも刻んで混ぜ込…

うまく使えないもの.

ノートをうまく使う事が出来ない。 どんなに気に入ったノートであれ、目的が無ければ買ったりしない。それなのに、いざ使おうとなった時、そのノートが愛し過ぎる余り、どうしても使えなかったり、使い始めたものの、字や一旦決めた使い方が気に入らず破いて…

胃もたれの月曜日.

電話の対応を立て続けに失敗した事で、頭の上から落ちてきた暗さを全身に纏いながら、書店に足を運ぶ。足取りが重たければ、鞄も重たい。 書棚に刺さっている雑誌を引き抜き、腕に抱えて(何十周年かの記念号は、矢鱈と重く分厚い)、「料理」という場所で弁…

遮光性.

新聞屋のバイクの音を聞いて寝、休日の娯楽に出掛ける人々の声で醒める。 陽の光に反応して醒める、という健全な体質は、何時の日か失われてしまったらしい。光の明るさではなく、光を受けたカーテンの白さや薄さばかりが意識に上る。 一体何時、陽の光の快…

リボン結び.

港の街へ行く。 亡くなったヒトの乾いたの、なんて大して見たいとも、道徳的に見ても良いとも、思わないのだが、両親が必死で「見なさい」と云うので、ひとりチケットを握り締めて行く。 合わない靴に無理矢理付き合わされて徐々に骨ばっていく、哀しき我が…

桟橋の金具.

「ずるいひと。いつもそうするのね。」 「・・・すまねえ。行ってくれ。」 男性の名誉と誇り(それらが一般に「男のロマン」と呼ばれるものだろうか)に加えてファシズムが台頭する時代思潮を描く一方で、「男のロマン」に翻弄される女性の切なさが描かれている…

白と黒の魚がおよぐ.

大事な時期がすべて抜け落ちてしまった、この日記を哀しく想う。もはや何をどういう態度で書き記していたのか忘れてしまったが、再開する事にする。 こんなにも毎日、ものが書きたい、又は、書かねばならない、と思い続けるとは、予想だにしなかった。学生時…